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思い出した時書くやつ

じゃがりこを食べる手が唸るぜ

無理なものは無理なんだ

去年の夏、新宿のスターバックスでフラペチーノを彼氏と飲んでいた時のことだ。

 

隣りに座ったバンドマンは向かい側に座っている線の細い彼女を放ってノートパソコンとにらめっこをしていた。一生懸命何をやってるのだろうと思ったがあんまり覗き込むのも良くないと思い、私達は黙ってフラペチーノをすすっていた。

 

「スタバのネット遅くねぇ〜?」

 

バンドマンの彼はおもむろにそうつぶやいた。向かい側の彼女は「そうなの?」と聞いているのか聞いていないのかわからないテンションで返事をする。

 

「打ち込み用のサウンドファイルが全然ダウンロードできないんだけど!」

 

私達は無言でざわついた。

近年様々なところで導入されるフリーwi-fiは、フリーと言うだけあって色んな人が同時に使っているため快適にインターネットをすることはあまり期待できない。現に今いるスターバックスも狭いが席数はそこそこあり、また駅直結ということで他にもPCを開いている人も多いのだ。どうかすれば、スマホでフリーwi-fiを利用している人だっているだろうから、それ相応の恩恵しか受けられないのは当たり前なのだ。

 

「もういいや、弟に電話してみる」

 

iPhoneで電話をし始めるバンドマン。この話の流れからして、弟にダウンロードをお願いする電話だろうか。そうであってほしいという願いを胸に、私達はフラペチーノをすすり続ける。

 

「あ、もしもし?なんかスタバのネットが遅くて全然ダウンロードできないんだよねー。だからさー、家にあるあのネットの機械あんじゃん?あれの裏に書いてあるIDとパスワード教えて」

 

き、き、貴様ーーーーッ!!

私達は驚愕し、フラペチーノを出目金のような顔ですすっていた。

バンドマンの彼はもしや、家のネットワークを外で使おうとしているのか…?使えると思っているのか…?というか、使えると思ってるならなぜ最初から使わないんだ。まぁ使えないんだけども。

しかし正直なところ、こんな認識の人は私の家族含めて周りにはゴマンといる。普段そんなことを気にするくらいインターネットをしていないんだろう。そうだろう。ーーーそう思った矢先。

 

「え?ダウンロード?…うん、えっとね、6ギガくらい

 

私達はフラペチーノの氷のごとく冷たくなった。このバンドマンは、フリーwi-fi相手に6ギガのファイルをダウンロードしようとしているッ!

私達は考えるのをやめた。フリーwi-fiで6ギガのファイルをダウンロードするには、時間が足りなすぎる。というか、普通の回線だって6ギガをダウンロードするのにはそれなりの時間がいるんだから、こんな不特定多数が使っているwi-fiを当てにするほうが間違っている。確実に閉店時間を過ぎてもダウンロードは終わらないだろう。

 

そんなことを考えているうちに電話が切れていたらしく、恐らく希望どおりの答えが弟者から聞けなかったのだろう、バンドマンはむしゃくしゃしているようだった。目の前の彼女は黙ってコーヒーを飲んでいた。

 

「なんなんだよも〜、スタバでmac開いてるやつらって何してんだろうな〜?」

 

macに八つ当たりするのはやめていただきたい。

散々世間から「スタバ+mac」は淘汰されてきているというのに…!

私からすれば「スタバでmacを開いているスカした奴」より「フリーwi-fiで6ギガのファイルをダウンロードしようとしている奴」の方がよっぽど恥ずかしい。自分の恋人がそんなことをやっていたらPCを叩き割って別れるレベルだ。

 

耐えられなくなり私達はスタバを後にした。恐らくあのまま隣にいたら壁を殴らずにはいられない程の苛立ちを感じるだろう。

聞いているだけですごく疲れて帰宅するまでお互い無言だった。楽しみだったフラペチーノの味ももうほとんど覚えていない。

 

バンドマンの彼は無事に打ち込み用のサウンドファイルをダウンロードできただろうか。そしてちゃんと打ち込んで曲になったのだろうか。

今でもスタバに行くとこの出来事をたまに思い出す。